偶然に意味を見いだしたとき

小さな偶然が重なることがある。

H君は一時期 東京で働いていたのだが、
以前から興味のあった分野を学ぶため
故郷へ戻ることを決めた。

しばらく離れていた懐かしい街。

特にすることもなく、
なんとなく目の前に止まった電車に乗ってみた。

Sさんは学生で、
家から少し離れた学校まで
いつもどおり通学していた。

毎日乗る、同じ時間の同じ電車。

不意に気分を変えてみたくなり、
なんとなく一本遅い電車に乗ってみた。

何気なく乗った電車の中。
何気なく見た窓際の席。

H君は見覚えのある顔に気づいた。
確かあの子は弟の同級生だ。

久しぶりに帰った故郷で
初めて見知った顔を見つけた。

話したことのない女の子に
普段ならとても声などかけられないH君だったが、
ポケットに一枚のガムが入っていることに気づき
何気なく差し出した。

「これ、よかったら。」

話したことのない男の子から
普段なら物をもらったりしないSさんだったが、
とっさの出来事に不意をつかれ
つい手を差し出した。

「あ、ありがとうございます。」

この日、
H君が何気なく電車に乗っていなかったら。
Sさんがなんとなく電車をおくらせていなかったら。

H君が窓際を見なかったら。
Sさんが顔を上げなかったら。

そして、H君のポケットに
一枚の梅ガムが入っていなかったら。

二人が出逢うことはなかったかもしれない。

「単なる偶然」と言い表せば、
この世のあらゆる事象は
いかなる理由も持ちえない
時間と空間のすれ違いとして説明することができる。

しかしそこにそれ以外の何かがあると感じたとき。
「偶然」に何らかの意味を見いだしたとき。
人はそれを「運命」と呼ぶ。

その梅ガムがなかったら
自分が生まれていなかったのかと思うと、
その「何か」があるような気がしてならない。

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