飛べないはずの蜂が飛ぶ

どこだったかの塾講師が
受験生を勇気づけるというか引っ張り込むというか
そういう目的の講演をしているのを耳にしたことがある。
話があちこちに飛んで
主題がはっきりしないものだったが、
オチは概ね次のような話だった。
 クマンバチが飛ぶメカニズムを解析すると、
 あんなに小さな羽で
 あんなに大きな体が浮くことは
 物理的に考えて
 理論に反していることがわかる。
 あの構造で蜂が飛べるというのは
 ありえないことなのだ。
 それなのに蜂が飛べるのは、
 自分が飛べることを疑っていないからだ。
 理論に反することでも、
 自分はできるんだ、と思えばできる。
 みなさんも自分を信じて、
 大空へ羽ばたいてください。

そのへんのビジネス啓発書にでも書いてありそうな話だが、
受験生が元気になってくれるのなら
それでもいいだろう。
だが、少し冷静に考えれば
無茶な話であることはわかる。
この方は
理論に反している
と言った。
蜂が飛ぶという事実と
この構造では飛べないという理論があるとき、
事実の方が間違っている
と発言したのだ。
学問を志す若者に向かって。
もちろん啓発と入塾が目的だから、
話の正当性はどうでもいいのだが、
それにしても無茶である。
理論に反する事実などというものは存在しない。
事実を反映しない理論があるだけだ。
ちょうど先週、
天気予報で「晴れます」と言っていたのに
雨が降った。
間違っていたのは、
天気だろうか。
それとも天気予報だろうか。

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